内閣総理大臣の訴追(憲法第75条)について

こんにちは。ご質問、ありがとうございます。


まずは、質問者さんの言葉に誤りがありますので、そこを訂正しておきますね。

憲法第75条には、

「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない」

と書かれています。「追訴」ではなく、「訴追」ですね。


「訴追」・・・検察官が公訴を提起する(つまり、裁判を起こす)こと

「追訴」・・・既に訴えられているものに、別の罪名を追加して訴えること


です。言葉の意味が微妙に違ってきますので、お知りおきください。ここでは「訴追」です。


さてさて、まずは質問の1点目。「内閣総理大臣は起訴できないのか?」ということですが、実はこれには諸説あります。


というのも、実際に内閣総理大臣が在任中に起訴されるという事態になったことがこれまでにないので、皆「え?これってこういうことなん?」という状態なのです。


この話題が出てきたのは、2010年に政治家の小沢一郎氏が民主党(当時)の代表選に出馬するという話が出た時に遡ります。


当時、小沢氏は自身の資金管理団体である「陸山会」の件で、検察審査会から強制起訴の議決を受けるかも知れませんでした。


ただ、当時は民主党政権でしたから、小沢氏が民主党の代表となると、小沢氏が内閣総理大臣に指名される可能性が出てきます。そこで、「内閣総理大臣は訴追され得るのか」ということで憲法第75条が注目されました。


この時に、憲法学者から出てきた意見は、次の3つに分類できます。


①内閣総理大臣は訴追できない。

②本人の同意があれば、内閣総理大臣も訴追できる。

③本人の同意がなくても、内閣総理大臣を訴追できる。


以下のURLの記事で、その論拠を併せて紹介しているので、よかったら見てみてください。

https://judiciary.asahi.com/articles/2010083000001.html


質問者さんの言う通り、内閣総理大臣は国務大臣に含まれると解釈されます(広義解釈)し、日本国憲法もこの解釈に立脚して書かれていると考えられています。


なので、日本国憲法に書かれている仕組みを「字義通り」解釈すれば、上記の②が妥当だろうと解釈する人もいます。(弁護士ドットコムの質問などには、そう答えられています)


ただし、憲法第75条が制定された趣旨から①を唱える憲法学者もいますし、異論を唱える検察関係者もいるようです。


なので、あなたの疑問に確たる回答をすることはできません。お許しください。

ただ、これまでに説明させてもらった様に議論が行われていますことをご紹介させていただきます。


次は、2点目。憲法第75条後半部分の

「但し、これがため、訴追の権利は、害されない」

というところですね。


皆さんは、「時効」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。


言葉を選ばずに、ざっくり分かりやすく言うと、

「犯罪行為を行った後に、一定期間警察から逃げ切れば刑罰を受けなくてよい」というものですね。

専門用語では、「公訴時効」といいます。


で、憲法第75条の後半で書かれていることは、実はこの公訴時効に関することなんですね。


前半部分に書かれている通り、国務大臣は在任中、内閣総理大臣の同意がない限り訴追できない(訴えることができない)です。


では、国務大臣の在任中に「時効」を迎えてしまった場合はどうしましょう??国務大臣の逃げ得ですか??という話ですね。


ちなみに、一番短い公訴時効は1年間になります。1年ぐらいだったら、国務大臣の在任期間中に経過してしまうことは有り得ますよね。


こういった恐れがあるので、憲法第75条の後半部分では、「但し、これがため、訴追の権利は、害されない」と記して、

「内閣総理大臣が同意せずに国務大臣を訴えることができなかった間は、公訴時効がストップするよ」

ということを保障しているのです。


先ほども申しました通り、一番短い公訴時効は1年間ですが、国務大臣の在任期間中で内閣総理大臣が訴追に同意していない間は、1年間へのカウントがストップして、国務大臣を辞めた瞬間からまた1年間へのカウントが始まるのですね。


ご質問、ありがとうございました。また何かわからないことがあれば、ご質問ください。

よろしくお願いします。



質問への回答(後藤貴士)

質問箱へいただいた質問の回答をしようと思います。

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